「ボッチプレイヤーの冒険 〜最強みたいだけど、意味無いよなぁ〜」
第83話

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自キャラ別行動編(仮)
<帰城と無駄で過剰な戦力>



 今回から主人公視点に戻ります。


 「それじゃあシルフィー、ザイル、あたしは一旦帰るから後はよろしく。数日したら迎えに来るからそれまでケンタウロスさんたちをよろしくね」

 「あやめ様、あやめ様、わっかりましたぁ〜。行ってらっしゃいませ〜です!」

 「シルフィーが悪さをしないよう、しっかりと見ておく、である」

 私の言葉に元気よく答えるシルフィーと落ち着いた口調で答えるザイル。
 ザイルの言葉にシルフィーが「なにをぉ〜!」って突っかかっていってたけど、私はそれを止めることなくゲートを開く事ができるマジックアイテム<リング・オブ・ゲート>をアイテムボックスから取り出して起動した。

 「おお、これは面妖な」

 「黒い穴が突然空間に!? これも魔法なのでしょうか?」

 開いたゲートの黒い渦を見て近くに居たお爺ちゃんケンタウロスと白いケンタウレの二人が驚きの声を上げているのを見て、私はふと考えた。
 ああそう言えばゲートを開くとみんな驚くよね? って。
 もしかしてこの世界ではゲートのように空間を渡る魔法って無いのだろうか?

 ん? 待てよ。
 そう言えばゲートって通常魔法の最高位、10位階の魔法だったよね?

 そっかぁそれで納得、それじゃあこの世界にあるはず無いか。
 前にエルシモさんがこの世界で最高の魔法使いが使える最高位の魔法が6位階だって言ってたものね。

 ・・・これってもしかしてこんな人前でほいほい使ってはいけない魔法だったんじゃないかしら?
 まぁ、今更気が付いても後の祭りだけどね。

 「ふふ〜ん、あやめ様の御力が解ったかしら?」

 そんなことを考えていたら、ゲートに驚いているケンタウロスたちに向かってシルフィーが胸を張りながらえらそうに言い放ってた。
 おいおい、これは私の魔法じゃないでしょ。

 「シルフィー、このゲートは私の力じゃなくてマジックアイテムの力でしょ。嘘を教えるんじゃないの」

 「あやめ様、あやめ様、マジックアイテムでもそれを所持して御使用なさっているのはあやめ様なのですから、これはあやめ様の御力で間違ってないのです!」

 そう言いながら胸をそらすシルフィー。
 なるほど、そういう解釈も出来るのか。

 「ん〜、まぁいいわ。それじゃあ行ってくるね」

 「はいはぁ〜い、行ってらっしゃぁ〜い」

 私はもう一度別れの挨拶をしてからゲートをくぐった。



 ゲートをくぐり終えた私の目に映ったのは、先程までいた草原とは違って綺麗に整備された庭と城の大きな門。
 うん、この光景を目にするとイングウェンザー城に帰って来たんだとはっきり認識できて安心するわ。

 この世界では私にとって脅威になるものは多分いないという事は解ってはいるんだけど、まるんからの救援要請の事もあるし、やはり守りが万全な場所に帰って来るとほっとするのよね。

 「お帰りなさいませ、あやめ様。良くぞご無事で。ささ、アルフィン様がお待ちです、どうぞこちらへ」

 「あっ、メルヴァだ。ただいま!」

 私は城の入り口で待っていてくれて、その上最高の笑顔で迎えてくれたメルヴァに子供らしく元気良く帰宅の挨拶をした後、そのまま案内されて城のエントランス横にある転移門の鏡が複数設置してある部屋へと進む。

 そしてメルヴァは一つの鏡の前に立つと私の方に向き、微笑みながら一つの鏡を示した。

 「あやめ様、こちらの転移門の鏡でございます」

 「うん、ありがとう」

 私はそう言うとメルヴァが示した鏡をくぐる。
 するとそこはアルフィンの私室エリア入り口で、

 「あっお帰りなさいませ、あやめ様。部屋でアルフィン様がお待ちです。どうぞ中へお入りください」

 「ただいま! うん、ありがとう」

 そこには今日の当番なのであろう、ココミがいたんだけど、彼女は私に気が付くとドアを開けて部屋の中へと促すしぐさをした。
 本来なら部屋当番の仕事柄、先触れとして私より先に部屋に入って中にいるであろうアルフィンに私の到着を告げて、そのままお茶の準備とかを始めるはずなんだ。
 それに反して、こうして私だけに入るよう促して一緒に入ってこないのは多分アルフィンからの指示なんだろうね。
 だってココミが居たら、私があやめからアルフィンに移る事ができないもの。



 中へと入ると控えの間があり、その先の扉を開けると中ではピンク色のドレス姿のアルフィンと、彼女の代名詞とも言える真っ赤なフルプレートアーマーに長い日本刀のようなツー・ハンデット・ソードとサブ武器のブロードソードを左右の腰に装備し、背中にカイトシールドまで背負ったシャイナが待っていた。

 その姿に私の緊張は高まる。
 だって、アルフィンのドレスは一見戦闘に向かないように見えるけど、実はこれ、外装をいじってこんな外見になってはいるけど本来はゴッズクラスの性能を持ったローブで、アルフィンの装備の中では防御力、各種耐性共に最高クラスの装備なんだよね。

 そして何よりシャイナだ。
 彼女が着ている鎧も日本刀のような剣も共にギルド武器を除けばこの城の中でもっとも高性能な物で、莫大なゲーム内通貨と、仲のいい戦闘系ギルドから融通してもらった最高の素材を使って、なおかつ武器鍛冶と防具鍛冶がそれぞれ15レベルのあいしゃとあやめが我がギルドにあるマーチャント技能が上がる高位の装備やアクセサリー類を身に着けられるだけ身に付け、課金の当たりアイテムで一度しか使えない貴重なマジックアイテムや魔法薬まで使い、そのスキルの全てを使って作り上げた多分二度と生み出す事ができないであろう程の、まさに我がギルドの宝と言っても過言ではないものなのよ。

 「二人がその装備を引っ張り出してきたってことは、本当に不味い状況なのね」

 本当の意味で私たちの最強戦力で挑まないといけない事態であるとあなたは判断したのね? と言う意味で問い掛けたんだけど、当のアルフィンからは予想外の言葉が帰ってきた。

 「いえ、わたくしにもそこまではまだ言えません。しかしあのまるんちゃんの慌てようは異常でした。それに前衛であるギャリソンがそばに仕えているのにシャイナまで寄越してほしいと言われたので、念のため最高の物をそろえてマスターをお待ちしていたのです」

 「ギャリソンは100レベルの前衛だけど、モンク中心で楯にはならないからね。その点私はホーリーナイト中心で組んだビルドだからある程度の相手なら一人で楯役ができるし、今回はアルフィンが居るから魔法で強化してもらえれば他のプレイヤーPT相手だったとしても何とかなる。大丈夫、どんな相手だったとしても私とギャリソンが前に立ち、後ろからまるんとアルフィンが支援してくれるのなら負ける事はないよ」

 そう言って二人は笑った。

 そうね、確かにこの布陣ならエリアボスくらいなら討伐できそうだし、たとえワールドエネミーが湧いていたとしても無事逃げ帰る位は出来そうだものねぇ。
 あっ、勝つのは無理よ、だってたった4人ではワールドエネミーを相手にするのは流石に無理があるもの。
 でも、どんな窮地だとしてもまるんを無事助け出すくらいはできるわ。

 「では早速向かいましょう。アルフィン、その体、使わせてもらうわよ」

 「マスター、すみませんが少しお待ちください」

 早速あやめからアルフィンに移ろうとした所で止められてしまった。
 あら、どうやらまだ何か説明しなければいけないことがある見たいね。

 「ん? なにかまだ話さなければいけないことがあるの?」

 「はい。実は私たちが今この格好をしているのはちょっと早まった行動と申しますか・・・」

 早まった行動? どういう意味だろう。

 「まるんちゃんからの指示で合流は明日の10時と決まっているのです。門を通らずわたくしたちがそのまま町に転移してしまっては周りから怪しまれます。ですから明日の10時にイーノックカウ東門から馬車を外に出して、ある程度のところまで行ったら停車するので、マスターにはそこにゲートを開いていただいて合流の後、その馬車で御越しくださいとの事です」

 「なるほど、救援要請は来たけど緊急ではないという事なのかな?」

 となると戦闘における救援要請じゃないの?
 いや、何者かがこの国、バハルス帝国に攻撃を仕掛けていて、その正体がユグドラシルプレイヤーなのかも。
 それを知ったまるんが身の危険を感じて私たちを呼ぼうとしているのかもしれないわ。

 まるんたちだけならゲートででも脱出できるけど、もしイーノックカウでユーリアちゃんたちの時のように仲のいい友達でも出来ていたらあの子の事だもの、助けたいと思うはずだものね。

 「慌てているようでしたし、なにやらやらなければいけない事があるようですぐに<メッセージ/伝言>を切ってしまったので緊迫はしているようですが・・・そうですね、それにしては次の日でもいいと言うのは少しおかしな話です」

 「でもさぁ、マスターがすぐに帰って来られるとは限らないし、何かやる事があるからってすぐに<メッセージ/伝言>の魔法が切れたんでしょ? なら、こちらの準備が整ってすぐに来られるとまるんがやっている準備に支障がきたすから来る時間を指定したんじゃないかな?」

 なるほど、確かにシャイナの言うとおりか。

 「そうね。何かやっているというのならその邪魔をしては可哀想だわ。指定どおり明日の10時に行く事にしましょう」

 「はい、マスター。それではわたくしの体に移られますか?」

 そうね、明日もし行ってすぐに戦闘なんて事になったら体になれていないと困るし、今の内からアルフィンに移ってならして置いた方がいいだろう。

 「そうするわ。では行くわよ。・・・ただいま、シャイナ。アルフィンは・・・休眠に入っちゃったみたいだからいいか」

 「お帰りあやめ。マスターのお手伝い、ご苦労様でした」

 「体を使わせてくれてありがとうね、あやめ。普段やらない事だからちょっと窮屈だったんじゃない?」

 今まで私に体を使われて休眠中だったあやめに声をかける。
 元々は私の自キャラだけど、今はそれぞれ意思を持って行動をしているのだから、いつも私に体を使われているアルフィンと違ってなれない状態で苦労したんじゃないかな? って思って聞いてみたんだけど。

 「ぜんぜん。それどころかほんとぉ〜に幸せな時間だったよ。やっぱりマスターに体を使ってもらえるのっていいなぁ。いつも使ってもらえるアルフィンがうらやましい」

 「そうよねぇ。私も使って欲しいけど、戦うしか能がないからなぁ。物も作れないし」

 あら。
 そうかぁ、私が体を使うと自キャラたちは幸せなんだね。
 前にもそんな事を言われた気がしたけど、このあやめの表情を見るとどうやら本当の事みたい。

 「まるんやあいしゃ、アルフィスもそうなのかなぁ? なら今度それぞれの体を使ってみようかしら?」

 「ずるい! 私も! その3人だけじゃなく、私も忘れないで下さい!」

 私の言葉に慌てて詰め寄ってくるシャイナ。
 シャイナは大きい上にスタイルのいい美人さんなんだから詰め寄られると大迫力でなんか照れちゃうのよね。
 だから私は彼女の両肩に手を置いて少し押し返し、

 「大丈夫よ。ちゃんとシャイナの事も忘れてないから」

 そう言って安心してという思いを込めてシャイナに微笑みかけた。


 ■


 所変わって、ここはイングウェンザー城の衣裳部屋。
 そこではセルニアがごそごそと、なにやら物色をしていた。



 「う〜ん、どんなのがいいだろう」

 まるん様のお話からするとアルフィン様方は多分戦闘用装備で赴かれるだろうから、あちらでまるん様と遊びに御出かけになられる時用の気楽に御召しになれる服が何着か必要なのよね?
 それになんかバハルス帝国の偉い方と会う可能性もあるからそれ用のドレスも必要だとか。

 「アルフィン様は遊びに行かれる時もドレスだからピンクを基調とした動きやすいものを数着と、あちらの貴族と御一緒しても問題がない豪奢な色合いん違うピンクのドレスを2〜3着用意するとして・・・やっぱりアクセサリー類も要るわよねぇ」

 そう言えばたいした性能は付いてないけど、アルフィン様自らがデザインなされたティアラがあったはず。
 前にギルド長であるアルフィン様をこれからは都市国家イングウェンザーの支配者って事にしようって話があったから、王冠は必要だよね。
 だって、支配者って事はお姫様か女王様って事だもの。

 「アルフィン様の御姿からするとお姫さまよねぇ。それにアルフィン様はピンクをお好みになられるからこのピンクダイヤのネックレスも念のため持っていってっと」

 その他にも数点のアクセサリー類を専用のケースに入れてアイテムボックスに収納。
 さて、次は問題のシャイナ様だ。

 シャイナ様の場合、赤いドレスがお好きで、それも大人っぽい物がよくお似合いになる。
 でも私は知っているんだ。
 本当はシャイナ様、アルフィン様が着るようなフリルの付いたかわいらしいドレスがお好きだという事を。

 「本当はピンクとかを着たいのだろうけど、それだとアルフィン様とかぶってしまうしなぁ。となると白? 淡いグリーンとかでもいいかなぁ」

 ここにあるドレスは皆魔法の装備だから、誰が着てもぴったりのサイズに自動修正される。

 本来淡いグリーンのドレスはあいしゃ様のものなんだけど、当然シャイナ様が着ても問題はないの。
 ただ、可愛らしいあいしゃ様にお似合いになるよう仕立てられたドレスは皆フリル多目で、なんと言うか子供っぽいんだよねぇ
 
 「シャイナ様が着ても、あまりお似合いにはならないだろうなぁ。やっぱり白にするか」

 白のドレスはアルフィン様の持ち物に多い。
 だからワンポイントでピンクが入っている物が殆どだけど、淡いピンクならそれ程目立たないし、アルフィン様の強めのピンクを基調として色々な濃さのピンクのレース生地が使われたドレスと並んだ姿を想像するとそれ程違和感は無い気がした。

 「白い肌でピンクのドレスのアルフィン様と褐色の肌で白のドレスを着たシャイナ様。その横にまるん様がお持ちになられたレモンイエローのドレスが並べばとても華やかになるに違いないよね。それに黒い執事服のギャリソンさんとメイド服のユミさんがつけば、うん、完璧」

 あ〜でも念の為、赤系統のドレスも入れておいた方がいいかなぁ?
 アルフィン様もまるん様も可愛らしいお姿だし、凛々しくセクシーなシャイナ様がお隣に並ぶ絵も素晴らしいのよねぇ。

 「うん、やっぱり真紅のドレスも入れておこう。シャイナ様の場合、会う事になる貴族が信用できない相手で緊急時に空を飛ぶ事ができるように背中の大きく開いたドレスで出席しなければいけないなんて事になったら困るものね。その手のドレスはシャイナ様専用だから赤しかないし」

 と同時にアルフィン様の淡いピンクのドレスも用意する。
 シャイナ様が赤いドレスを着るのであれば濃いピンクより淡いピンクの方がお並びになられた時に栄えると思うからね。

 と言う訳で、ドレスは完了。
 後はシャイナ様用のアクセサリーだけど・・・。

 「ドレスはともかく、シャイナ様の凛々しいお顔から考えて髪を結い上げた時につける髪飾りはやはり豪華なものがいいよね」

 とりあえず薄いミスリルで出来た百合の花の髪飾りやブラックパールと7色に光るヒヒイロ金のブローチ、そして幾つかの派手目のアクセサリーを専用ボックスに入れていく。

 「本当は可愛らしいものを好まれるというのは解っているんだけど、どう考えてもこういう物の方がシャイナ様にはお似合いになるのだから仕方がないよね」

 そして最後はまるん様だ。

 まるん様はアルフィン様たちが御出席になるのなら自分は貴族と会わなくてもいいと仰られていたけど、念のため準備はしておいた方がいいと思う。
 だって、いざその時になって慌てて用意しようと思っても後の祭りだもんね。

 「でもまるん様かぁ。どんな物がいいのかなぁ?」

 まるん様はとにかく可愛らしい御姿だ。
 人間で言うと10歳くらいに見えるし、薄い茶色のショートカットとあのまるい大きな目が印象的過ぎてどんなアクセサリーをつければいいか悩んでしまう。

 「この金細工の蝶とかは・・・う〜ん、まるん様の髪の色には合わないか。かえって銀とかプラチナの方が茶色の髪には合うのよねぇ。あっ、オリハルコンのカチューシャとかどうかしら?」

 色々なアクセサリーを手に取り、それを身に付けたまるん様を思い浮かべる。
 う〜ん、元がいいから何をつけてもお似合いにはなるのよねぇ、でも。

 「隣に並ばれるアルフィン様とシャイナ様がお二人ともゴージャスでお美しすぎるから、あの可愛らしいまるん様ではどうしても負けてしまうんだよなぁ。かと言って派手にしたらいいというものでも無いし」

 ああでもない、こうでもないと衣裳部屋のアクセサリーボックスを幾つも開き、何時間もまるんに似合うアクセサリーに頭を悩ませるセルニアだった。


あとがきのような、言い訳のようなもの



 戦闘準備万端です。
 ワールドエネミーとだって戦える戦力です。(撤退戦ですがw)
 でもその全部が無駄な準備なんですけどね。

 さて、前回まるんがセルニアに頼んだのは今回読んでもらえば解るとおり衣装とアクセサリー選びです。
 まるんだって、あのメッセージでは戦闘を想定してやってくると解っているのでこのような準備をしなければ、結局ドレスを持っているまるんが行かなくてはならなくなるのが解っていますからね。

 と言う訳で、セルニアはこの衣装を持って自分のゲートの魔法を使ってまるんのところに訪れます。
 イーノックカウにそろうイングウェンザー100レベルの戦士たち!
 なに? 平和な町にこの無駄な大戦力w

 最後に、作中に出てくるゲートの位階ですが、D&Dでのゲートは9レベル、すなわち最高レベルの魔法なので10位階としました。


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